眠り姫は夜を彷徨う
一緒に登校出来なくても普通に話す機会なんて本当はいくらでもある。でも、休み時間などに紅葉を見掛けて声を掛けようとしても何かしら邪魔が入ったりして話す機会を逃してばかりいた。
紅葉もこちらの存在には気付いている筈なのに、特に声を掛けて来ることはなかった。
(僕は気付かないうちに何か、紅葉の気に障るようなことをしてしまったんだろうか…)
別に何を言われた訳でもない。だが、何かが変わったことだけは分かる。
(…紅葉)
圭は人知れず小さく息を吐くと、塾の出入り口である自動ドアを通り抜けた。そして、自転車を停めてある駐輪場へと向かい掛けたその時だった。
「えっ…」
薄暗い通りの向こう。歩道を歩く後ろ姿に思わず足を止めた。
長い髪をなびかせ、どこか覚束ない足取りで歩くその少女の姿は、彼女のことばかり考えていたから見えてしまった幻なんかではないだろう。自分が見間違える筈もない、紅葉のものだった。
(何でまた、こんな所までっ…)
圭は駆け出していた。一瞬、ガードを飛び超え、通りを渡って後を追い掛けようとも思ったが、自転車を置いたままにも出来ないと、すぐさま駐輪場を目指した。
普通なら、この薄暗い視界の中、この距離で、それも後ろ姿だけで人物の特定など簡単に出来るものではないだろう。だが、圭には判ってしまうのだ。紅葉のことなら…。
背格好。歩き方。そして、意識のない中出歩く時のその様子まで。
圭が駐輪場へと差し掛かった頃には、紅葉はかなり遠くまで足を延ばし、横道へと入って行くのが見えた。
紅葉もこちらの存在には気付いている筈なのに、特に声を掛けて来ることはなかった。
(僕は気付かないうちに何か、紅葉の気に障るようなことをしてしまったんだろうか…)
別に何を言われた訳でもない。だが、何かが変わったことだけは分かる。
(…紅葉)
圭は人知れず小さく息を吐くと、塾の出入り口である自動ドアを通り抜けた。そして、自転車を停めてある駐輪場へと向かい掛けたその時だった。
「えっ…」
薄暗い通りの向こう。歩道を歩く後ろ姿に思わず足を止めた。
長い髪をなびかせ、どこか覚束ない足取りで歩くその少女の姿は、彼女のことばかり考えていたから見えてしまった幻なんかではないだろう。自分が見間違える筈もない、紅葉のものだった。
(何でまた、こんな所までっ…)
圭は駆け出していた。一瞬、ガードを飛び超え、通りを渡って後を追い掛けようとも思ったが、自転車を置いたままにも出来ないと、すぐさま駐輪場を目指した。
普通なら、この薄暗い視界の中、この距離で、それも後ろ姿だけで人物の特定など簡単に出来るものではないだろう。だが、圭には判ってしまうのだ。紅葉のことなら…。
背格好。歩き方。そして、意識のない中出歩く時のその様子まで。
圭が駐輪場へと差し掛かった頃には、紅葉はかなり遠くまで足を延ばし、横道へと入って行くのが見えた。