眠り姫は夜を彷徨う
急いで自転車を取りに行き、戻って来ると、既にその通りに紅葉の姿はなかった。

圭は慌てて自転車へと跨がると先程紅葉が曲がったであろう道を目指した。だが、通りを横断する際に信号に引っ掛かってしまい、余計な時間をロスしてしまう。

夜の駅前通りは昼間に比べて断然車通りは少ないものの全くない訳ではない。タイミングさえ計れば難なく渡れるのだが、根が真面目な圭は、こんな時でさえ信号無視をすることに抵抗を感じていた。

だが、気持ちだけは逸る一方で。通り過ぎる車の光の流れを恨めしそうに見つめる。

(最近も症状が出てることは把握してたけど、この間に続いて何でまたこんな遠くまで…。この辺りに何かあるんだろうか?)

紅葉の中に『何か』があるから、こんな所まで足を延ばすのではないのか?と考えながらも、夢遊病時の行動については正確なことは何も分かってはいないし、紅葉自身にも身に覚えのない行動なのだから困ってしまう。

(それじゃなくても、この辺りは今ホントに物騒なのに。早く見つけて連れ帰らないと…)

連日のように喧嘩や乱闘騒ぎがあったという話を耳にする。それに、女性の一人歩きはある意味自殺行為だ。自ら襲ってくれと言っているようなものなのだ。

信号が青に変わるとすぐに自転車を走らせる。紅葉が入って行った角を曲がると途端に薄暗い別の空間が広がっていた。街灯は殆どなく大通りにあるような街路樹等の緑もない、灰色のコンクリートが連なる冷たい景色だった。

圭は一瞬躊躇するも、ゆっくりと自転車を走らせた。
< 66 / 186 >

この作品をシェア

pagetop