眠り姫は夜を彷徨う
(もしかして…最近、紅葉が急に変わったのも、このことと何か関係があったりするんだろうか?)

夜な夜な動き回っている分身体の疲れが取れず、普段通り起きることが出来なくて、いつもの家を出る時刻に間に合わない、とか?

そんな考えが一瞬頭を過ぎって。

単に自分は、最近の紅葉の変化について何か理由を付けたいだけなのだと改めて思った。自分に都合の良い、言い訳が欲しいだけなのだ。

自分と紅葉の間には、特に仲を違えるような出来事は何もない。だから、今は色々な偶然が重なっているだけで、紅葉が敢えて自分を避けている訳ではないのだと信じたいのだ。

(女々しいな、僕は。今は、そんなことを言ってる場合じゃないのに)

紅葉にとって夢遊病は、他人には知られたくないトップシークレットだ。騒ぎが大きくなって足が付く前に、何とかして連れ戻してあげたい。

それに彼らには、あれが紅葉だとはまだ気付かれてない様子だった。正体がバレてない今なら何とかなる。

(でも、桐生さんと紅葉は顔見知りなんだ。いつバレたっておかしくない。桐生さんに追いつかれる前に何とかしないと…)

紅葉の足が早いのは知っている。だが、男と比べたら幾ら何でも無理があるだろう。

(それに、あの人運動神経良さそうだし。何より、強そうだ…)

あくまでもイメージではあるが、桐生という男は喧嘩慣れをしてそうな少々危なげな雰囲気を纏っているのだ。それこそが彼をワルっぽく見せてしまっている所以(ゆえん)なのだろう。そして、それがまたミステリアスな魅力を倍増させているのだ。
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