眠り姫は夜を彷徨う
そして、彼の側にはもう一人、生徒会長までもがついている。

生徒会長の立花は、桐生とは見た目は全く正反対のタイプだが、文武両道に秀でていて、その気さくで明るい人柄から男女ともに人気がある。

縁あって彼とは話をしたことがあるのだが、年上にも年下にも分け隔てなく接してくれ、とても話し上手で圭自身も好感が持てたのを覚えている。やはり生徒会長などになる人は、こういう人柄が皆に支持をされるんだなぁと感心したものだ。

だが、頭も切れるし何より勘が鋭い人物だ。敵に回せば厄介な強者になるに違いない。

(何にしても、あの人たちと紅葉が対峙するようなことにはならないようにしないと…)

圭は自分の勘に任せて適当な角を曲がると、再び細い裏道へと入って行った。





(…何処だ。何処へ行った?)


桐生は息を切らせながら差し掛かった路地で辺りをキョロキョロと見回していた。だが、周囲を見渡しても冷たいコンクリートの影が連なっているだけで薄暗い闇と静寂に包まれている。

「確かにこっちへ行ったハズなのに…」

耳をすましてみても、それらしい足音さえしない。

(…何処かに潜んでいるのか?)

周囲を警戒しながら少しの物音も逃さぬつもりで聞き耳を立てる。だが、夜風が吹き抜けるだけで人の気配は感じられなかった。


掃除屋らしき人物を追い掛けて数分。早くも目標を見失ってしまったようだ。桐生は自身の思わぬ失態に一人小さく舌打ちをした。

未だそんなに遠くへは行っていない筈なのだ。確かに奴は逃げ足が早かったが、こちらを振り返りもせず、ひたすらに駆けて行くその後ろ姿を少しずつ大きく捉え始めていたのだから。
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