眠り姫は夜を彷徨う
二人はすぐに住宅街へと続く角を曲がり、夜の闇の中へと消えて行ってしまったのだが、立花は特に慌てる様子もなく静かに今撮った写真を開いた。そして、後ろに乗っていた女性を画面上で拡大する。

(やっぱり…)

それは、先程目の前で乱闘していた『掃除屋』らしき人物に間違いなかった。服装や髪型、背格好などが全て一致している。

立花の持っているスマートフォンのカメラは性能が良く、わりと暗い中でも綺麗に撮れる方なのだが、距離が離れていたこともあり、顔部分を拡大してみてもぼやけてしまっていて良く分からなかった。こちら側を向いて映ってはいるものの、この写真を片手に人探しをすることは難しそうだ。

だが、スマホを介してよりも自身の目で見た時の方が顔は良く見えた気がする。

(あれは、まだ若いな…)

中学生、または高校生か。何にしても十代なのは間違いないだろう。

(そして、意外にも掃除屋には協力者有り…っと)

これは今まで聞いたこともない、予想外の収穫だ。

今度は、自転車を運転していた男の方に画面を移動しようと操作し始める。遠目で見ても分かるぐらい彼も年若い少年のようだった。

その横顔を大きく拡大する。すると…。

(あれ?この子は…)

見たことのある顔だった。

少女と同様にハッキリと人相が判るわけではない。だが、その横顔のシルエットと髪型。そして着ている服…。

それは、ほんのつい先程見掛けた人物のものにあまりにも酷似していた。

同じ高校の一年下の後輩で、同じ予備校にも通っている…。

(これ…本宮くんじゃないか?)

立花は驚愕に大きく眼を見張った。

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