眠り姫は夜を彷徨う
次第に瞳に光を取り戻すように紅葉の焦点が合っていく。

「あ…。けいちゃ…?」

「うん」

圭は心配げに振り返りながらも、横から覗き込むように紅葉と視線を合わせてくる。

「大丈夫?紅葉…」

「…っ…」


また、やってしまったのだと瞬時に理解した。

圭ちゃんの後ろには煌めく星空。緩やかに流れる冷たい夜風に一気に頭が覚醒していくのが分かる。

自分でこんな時間に外に出た記憶はなかった。

「私…また…」

絶望的な後悔と共に自己嫌悪が襲ってくる。

「また…圭ちゃんに…」

無意識に出歩く私を圭ちゃんが連れ帰ってくれたことは今までにも何度かあった。

「ごめ…」


(ダメなのにっ!)


自らの声が聞こえる。


(この優しい声に甘えていては駄目なのにっ!いつまでも、その背に頼ってばかりいては駄目なのにっ!)


穏やかな優しい声。圭ちゃんの声なら例え眠っていたって判る。それくらい自分の耳に馴染んでいるのに。

その温かな背は、いつだって傍にあって。小さな頃から隣り合って笑い、寂しい時、泣きたい時、そして私が迷った時は、いつだってその背を貸してくれていた。

だけど…。



『本宮くんが優しいのを良いことにそういう現状に甘えてる。そういうとこが何より図々しいって言ってるの』



「ご…めんなさいっ!」

「えっ?」

紅葉は突然弾かれたように自転車から飛び降りると、即座に家の中へと駆け込んだ。

あまりに咄嗟の出来事に圭は思わず反応が遅れ、そんな紅葉をただ驚きの瞳で見送ることしか出来なかった。

「紅葉…」


そして紅葉は…。誰もいない暗い家の中。玄関扉を背にしたまま、ただ静かに涙を零した。

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