眠り姫は夜を彷徨う
「…気になりますか?」

「あん?別に特別な思い入れはねぇけど、まあ…そうだな。正直あんだけ強者だと、いったいどんな女なのかってな興味はあるよな」

正直なところを口にする。

「でもって美人だってんなら尚更、な?」

そうニヤリと笑みを浮かべる。すると、立花も「ですよねー」と相槌を打って小さく笑った。

「ま、何にしても今のところは、お前の記憶だけが頼りになっちまうからな。それらしい奴がいたら教えてくれ。流石に都合よく見かけるなんてことはねぇと思うけどよ」

「はい」

そう立花が返事を返したところで一旦話は途切れた。桐生の隣を同級生らしき人物が通り掛かり、挨拶がてらそちらで会話が始まった為だ。

そんな桐生を横目に立花は自らの考えに頭を巡らせた。


(少なからず本宮くんの知り合いには、違いなんだろうけどな)


あの夜、確かに自転車に乗っていたのは掃除屋である彼女と、この学校の生徒である本宮という少年だった。

その為、立花は翌日彼に接触を試みていた。

彼とは通っている予備校が同じなので、別学年の自分たちが話していると自然と目を引いてしまう学校内ではなく、予備校の方で声を掛けてみたのだ。



「本宮くん、ちょっといいかな?」


授業が終わり、帰ろうとしている彼をさり気なく呼び止めると、彼は一瞬だけ緊張を見せた。

「えっ?立花…さん?」

「ごめんね、今時間大丈夫かな?」

「あ…ハイ。別に、大丈夫…ですけど…」

出来るだけ自然に優しく声を掛けたつもりだが、何処かオドオドした様子が抜けない彼。だが、まあ一度話したことがあるとはいえ、上級生に突然声を掛けられたらこんなものなのかも知れない。
< 82 / 186 >

この作品をシェア

pagetop