眠り姫は夜を彷徨う
明らかに動揺している。だが彼の動揺は、こうして問い詰められていることそのものにではなく、彼女のその『行動』に対してのように見える。

「もしかして、本宮くんも彼女が『掃除屋』として活動していることを最近まで知らなかった…ということかい?彼女はそんなことをするような子じゃないと。君は、そう信じたいんだろう?」

「……っ…」

目を見張って黙り込む彼の様子に、それがあながち外れていないことを知る。

「本宮くん、悪いようにはしない。約束するから、彼女がいったい誰なのか…。それだけでも教えて貰えないかな?」

「そ、れは…っ…」

彼は眉を下げると俯いてしまったが、暫くして何か意を決したように歯を食いしばると、こちらに強い視線を向けてきた。

「ごめんなさい。言いたくないですっ。僕は彼女の『仲間』ではないけど、彼女を庇っていると思われるなら、それでも構いません。立花さんには申し訳ないですけど、僕から彼女について話せることは何もありませんっ」

「本宮くん…」

強い意志を宿した瞳。

彼はこんな顔も出来るのか。そう思える程に普段の柔らかく、どこか幼いイメージと違い、しっかりとした男らしい返答だった。

「失礼しますっ」

そう頭を下げ、立ち去ってゆく彼の後姿を無言で見つめる。

(成る程。君にとって彼女は、それだけ大切な子だという訳だ…)

それが分かっただけでも、ある意味収穫だと口の端を上げた。

彼の周辺を調べてみれば、遠かれ近かれ何処かで彼女に繋がることが約束されたも同然なのだから。



(まだ詳しくは調査中だけど…)

彼の家族構成から親類関係。そして友人関係など現在情報収集をしているところだ。
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