眠り姫は夜を彷徨う
分厚い眼鏡が光を反射して、彼女の瞳はほぼ常に隠されているような状態だ。或いは正面に回り込みさえすれば、きちんと見えるのかも知れないけれど。

(でも「実は眼鏡をはずすとスゴイんです!」…みたいな漫画的展開もあったりする?…いや、流石にそんな上手い話…)

そんなことをつらつらと考えながらも。ふと、何かを感じて立花は軽く後ろを振り返った。すると…。

(あ、本宮くんだ)

そこには圭が何人かの友人たちと群れをなして歩いていた。クラスメイトなのだろう、中には女子も数人含まれている。それは以前からよく見掛ける光景ではあった。

圭の横にはその内の一人の女子がピッタリと寄り添うように歩いていて、彼だけに向けられるその笑顔に彼女が圭を気に入っていることが傍から見ていても分かる程だった。だが…。

(そのわりには本宮くんの心、ここにあらずって感じだなァ)

隣の女の子が哀れに思えてしまう程、彼は彼女の方に見向きもしない。相槌くらいは打っているのだろうけど。

(…何だ?いったい何処を見て…)

横で彼にひたすら笑顔で話しかけている女の子には目もくれず、じっ…と一点を見つめる彼の視線。その先を目で辿っていくと。

(え…?桐生さん?いや、違う、か?)

自分の隣を歩く桐生。そして、その横を歩く彼女へと視線が注がれているような気がする。そして、それは普段の柔らかいイメージとは異なる、彼らしからぬどこか強いもので。

そこに含まれる複雑な色は、まるで…。

怒り。哀しみ。戸惑い。疑問。羨望。嫉妬…。

また、それ以外の様々な想いが混じり合ったような複雑な想いを含んでいるように見えた。
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