眠り姫は夜を彷徨う
チャイムが鳴りやむと同時に担任の教師が教室内へと入って来て、すぐに出席を取り始めた。

そんな中、紅葉は先程頭に浮かんだことをぼんやりと思い返していた。


(何だったんだろう…さっきの…)

昔の記憶…、とかなんだろうか。

過去の出来事が記憶の片隅にでも焼き付いて残っていたとか。

(でも、夜の街を出歩くようなことは滅多になかったと思うんだけどな…)

それも人気[ひとけ]のない薄暗い路地裏なんて。

何にしても覚えている限りで、そんな場所へ行った記憶も、そんな場面に出くわしたこともない筈だ。

テレビや何かで見たものが印象に残っていたということも有り得るだろうか。

もしかしたら夢で見た一場面とかなのかも知れない。

(こないだカツアゲにあったっていう話を学校で聞いたから影響を受けたかな?)

それでも何にせよ、随分と物騒な夢には違いないけれど。

(でも、とりあえず悪さする人たちがいなくなって平和になったんなら良かったよね)


そこで出席番号順に自分の名が呼ばれて、紅葉は「はい」と返事をした。





その頃。

圭のいる隣のクラスでは…。

チャイムは鳴ったものの担任の到着が遅れているのか、まだ教室内は雑談をする生徒達で賑わっていた。

「なぁ、本宮ー」

「ん?」

前の席の友人が身体ごと圭の方を振り返って話し掛けてきた。

「お前さ、いっつも隣のクラスの女と朝一緒にいるじゃん?あれって、もしかしてカノジョ?」
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