眠り姫は夜を彷徨う
「だって…自分の行動さえ制御出来てないくせに、昔からけいちゃんを巻き込んでばかりでっ。迷惑以外の何ものでもないっ!そんなの、私にだって分かってるよ!」

「紅葉っ!それは違うっ」

僕は巻き込まれてるだなんて思ったことは一度もない。そう伝えたいのに紅葉はたたみ掛けるように言葉を続けた。

「違わないよっ!いつまでもけいちゃんが優しいからって甘えてばかりで…っ。このままじゃダメだって分かってるのにっ。それなのに…自分では、どうすることも出来なくて。…情けないよね。こんなんじゃ嫌われて当然だよね…っ…」

次第に語尾が小さくなっていく紅葉の言葉に、僕は我が耳を疑った。

「ちょっと待ってよっ。どうしてそんな話になっちゃうんだよっ?」

僕が紅葉を嫌いになるって?いったい誰がそんなこと…。

そう続けようとした言葉は。

「…もう、放っておいてくれて良い、から…っ…」

そう言って駆け出した紅葉に届くことはなかった。



結局、それ以来はずっと紅葉に避けられたままだ。逆に、今までよりもあからさまに避けているのが分かる程で、圭は苛立ちを募らせていた。

(何でこんなことになっちゃったんだろう…?そもそも、紅葉の様子がおかしくなったのは何でなんだ?そのきっかけさえも分からない…)

自分は何か、紅葉が嫌がるようなことを言ってしまったんだろうか?

知らぬうちに彼女を傷つけていたんだろうか?

(…分からない…)

紅葉は『嫌われて当然』だと言った。

でも、自分は紅葉に『嫌う』なんて言葉を一度でも口にしたことなどないのだ。


(…当たり前だ。こんなにも、彼女のことが好きなのに…)

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