眠り姫は夜を彷徨う
「…もうっ、本宮くんってば」


「あっ…。ごめん、何?」

「どうしたの?急に立ち止まったりして…。皆もう行っちゃったよ?」

その言葉に周囲を見渡すと、今まで一緒に歩いていたクラスメイト達は、その子以外いなくなっていた。

「あ…」

隣にいたのは特別仲が良いという訳でもないけど、最近よく話し掛けてくるクラスメイトの女の子だ。

(よく朝も一緒になることが多いよな。確か、名前は磯山さん…って言ったっけ…)

いつも割と大きな集団になってしまっているので特に気にしてもいなかったのだが、彼女は気付けばよく隣にいることが多い。積極的に話し掛けてくるので、だいたい自分は聞き役に回っていることの方が多いのだけれど。

いつまでも立ち尽くしていると予鈴のチャイムが鳴ってしまうので、とりあえず二人一緒に歩き出した。

「待っててくれたんだね、ごめん」

「全然いいの。でも、今日は随分ぼーっとしてるね。何か悩み事でもあったりするの?」

「うーん…。悩み…っていう程でもないんだけどね」

…とか言いつつ本当は、かなり堪えているのだけれど。

(それをこの子に話しても仕方ないしな…)

彼女と話をしながら目線だけでさり気なく紅葉の姿を探していた。でも、もう校舎へと入ってしまったんだろう。一緒にいた桐生さんも周囲には見当たらなかった。

知らず小さくため息が出る。

すると、隣の彼女が首を傾げながら見上げてきた。

「本宮くんってば、まーた溜息ついてるっ。何だか悲しいなぁ」

「…悲しい?何で?」

彼女の言ってることが分からなくて聞き返すと。


「だって、私…本宮くんのこと好きだからっ」


笑顔で思わぬ言葉が返ってきて、圭は面食らってしまった。
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