眠り姫は夜を彷徨う
「何で…」

それを知っているのなら尚更、何故そんな笑顔を浮かべているのか。

意味が解らず圭は困惑した。彼女は笑顔のまま続ける。

「見てれば分かるよ。私、本宮くんのこと好きで入学してからずっと見てたんだもん。でも、あの子のどこがいいの?あの子は本宮くんのこと、ただの幼馴染としか思ってないんだよ?」

「………」

そんなこと、誰に言われずとも分かっていた。自分が一番紅葉を近くで見てきたのだから。

「それに、最近は三年の桐生先輩って人と仲良くて、よく話してるのを見掛けるよ。もしかしたら如月さんは、あの人のこと好きなんじゃないのかな?」

それだって知っていることだ。今さっきも、目の前で仲良さそうに話しているのを見て、自分も薄々感じていたことだった。だが…。

「確かにそうかも知れない。でも、もしそうだとしても僕には関係ないんだ。僕が彼女を好きな気持ちは何も変わらないから」

「……っ…!!」

そう。そんなに簡単に諦められるような想いではないのだから。

すると、目の前の彼女の顔が再び歪んだ。

「なんでっ?そんなに…っ…」

うつ向き、悔しげに小さく呟く声が聞こえる。

(磯山さんには悪いけど、それだけは譲れないから…)

そうして、この話は終わりだと再び足を進めようとしたその時、彼女が口にした言葉に圭は凍り付いた。

「私、如月さんの秘密…知ってるんだよ」

「…秘密?」

嫌な予感がした。

「今、巷で騒がれてる掃除屋。あれが如月さんなんだってこと」

「な、にを…っ…」

「証拠の写真だってバッチリあるんだから」

そう言って制服のポケットから取り出したスマホには。

夜を彷徨う紅葉の姿が映し出されていた。

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