眠り姫は夜を彷徨う
「何で磯山がっ?ちょっと紅葉っ。このままで良いわけっ?」

必死な形相でこちらを振り返るタカちゃんに。

「良いも何も…。私が言えることなんて何もないし…」

ちょっと…いや、結構驚いていたけど何とか無理やり平常心を保って笑顔を浮かべてみた。でも、上手くいかなかった。きっと私、今へんな顔してる。

そんな私を見てタカちゃんが眉を下げた。

「もみじ…」


いつかはこんな日が来るんだろうなって、ずっと思っていたけれど…。いざ、こうして目にしちゃうと何ていうか…複雑なものなんだなぁと冷静に分析している自分がいた。

(私は圭ちゃんの親でも家族でも何でもないのに…。こんな気持ちになるなんて、おかしな話だよね…)

考えていたら本当に可笑しくなって、思わず笑ってしまった。

突然、小さく笑い出した私にタカちゃんは何とも言えない顔をしていたけれど、それ以上は特に何も言ってこなかった。

そうしてタカちゃんは部活へ向かう為、その場で別れた。



『もう小さな子どもじゃないんだからさ、そういうの止めたら?』

『昔からの腐れ縁に付き合わされる本宮くんの身にもなってみなよ』


以前、磯山さんに言われた言葉が今でも心の片隅に突き刺さっている。

でも、私はあまり自覚していなかったのだ。一緒にいるのが当たり前のようになりすぎていて。

圭ちゃんの優しさに甘えすぎていて、圭ちゃん自身の不満に思う気持ちに気付けなかった。

(でも、磯山さんみたいな大切な人がいるんだもん。私なんかに周囲をうろつかれたら、確かに迷惑でしかないよね)

それは当然のことだと思う。


もう、いい加減卒業しなくちゃ。

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