眠り姫は夜を彷徨う
一方、その頃…。

圭は学校からわりと近い場所にあるファストフード店で、飲み物を手に香帆と小さなテーブルを挟んで向かい合っていた。周囲には同じように近隣の学校に通う高校生たちが多くの席を埋め尽くしており、放課後特有の賑わいを見せていた。

ちなみに、この店は圭の自宅とは少し違う方向に位置しているのだが、彼女の強い要望により遠回りをしながら寄り道をしている状態だったりする。


香帆は学校を出る前から、ずっと上機嫌だった。いや、正確に言うと今朝の『あの時から』だが。

「私、放課後こうやってデートするの夢だったんだー」

そう言って、今も満足げに透明カップに入ったアイスティーの中身をくるくると混ぜている。

「本宮くんは、こういうお店ってよく来たりするの?」

笑顔でそんなことを聞かれ、圭はどう反応していいか迷いつつも律義に答えた。

「う…ん、来ないことはないけど、放課後にこうやって寄り道することは殆どない、かな」

「そうなんだー?」

香帆は、朝のやり取りなど何もなかったかのように穏やかに笑っている。他から見れば、普通のカップルに見えてしまうのかも知れない。

だが、圭の心中は穏やかではなかった。表立って不機嫌さを露にはしていないものの、彼女に言いたいことは山程ある。

それでも元来攻撃的ではない圭は、穏やかに本題へと切り込んだ。

「磯山さん、今朝の話なんだけど…。本当にこんなことが条件なの?」

すると、香帆はクスッ…と小さく笑った。

「そうよ。ちゃんと言うことを聞いてくれたら、あの写真のことは誰にも言わないでいてあげる」
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