【完】ファーストキス、投げ出して。
差し出された手にしぶしぶ手を乗せて。
相手の顔拝んでやろうと睨みながら目を合わせると。
「なんで、ここに。」
その人は、ファーストキスの相手だった。
「北川く~ん、待ってえ~!」
階段の下の方からさっき聞こえた声が聞こえてくる。
「やべっ。」
「え、ちょっと!」
ぐいっと手を引かれて階段を駆けのぼる。
とにかく上へ上へのぼって。
鳴り響くチャイムの音も無視して。
この人が北川っていう名前だってことも。
次の化学はやばい先生だってことも。
そんなこと全部吹っ飛んで。
ただただ、また会えた。
その事実だけが脳内を支配した。
猫なで声の女子の声も聞こえなくなったのは。
屋上手前の階段まで駆けあがってからだった。
「ごめん、転校初日で道分かんなくて。」
「いや。」
「まじで怖えぇ……。」
汗で張りついた髪を掻き上げている。
汗ばんだ額に、2年前より大人っぽくなった姿。
階段をのぼった時のドキドキじゃないドキドキが。
徐々に増している。