一つだけ願いが叶うなら
帰り道。
駅まででいいって言ったんだけど、結局家まで送ってもらった。
「今日はありがとうね」
「こちらこそありがとう。楽しかった」
もうちょっと一緒にいたかったけど、もう暗いしお別れかな。
あと、法事の件もあるし・・・
「じゃあ、また今度予定合わせよっか」
「そうだな。また連絡してくれ」
「うん、それじゃあね」
「おう」
私は部屋に入ろうとする。すると、
「遥!」
思わず振り返ると、歩がすぐ近くで立っていた。
「なに・・・んっ!」
不意にキスをされる。・・・えっ?まじで?
唇を解放されると、歩は照れくさそうにしていた。
「なんか、したくなった」
私も顔が真っ赤になって、歩の顔をまともに見れない。
「もう帰るよ!」
早くこの場から逃げ出したくて、さっさと帰してしまった。
部屋に入ると、歩の言葉が頭の中でこだまする。
『遥!』
『なんか、したくなった』
昔、聞いたことのある言葉。ずっと忘れていた言葉。
嘘。忘れようと頑張っていた言葉。
「なんで重なるの・・・」
この日は涙を流しながら寝た、気がする。
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