伊東さんの運命の相手はクズでした。
なんだか段々と面倒になって来た。
え?てかそもそもあんた私のこと手放したくない程好きだったの?
あんたが嫌なのは私と別れる事より彼女にフラれたっていうレッテルじゃないの?
あれ、そう言えば私この人の何処が良いなと思ってた告白を受け入れたんだっけ。考えれば考えるほどよく分からなくなって来た。
うん、切ろう。そうしよう、それが1番いい。
妙に勘が鋭い親友は察して「切っちゃうの?」と再度確認してくる。
多分私が考え直す時間を与えようとしたのだろうけど私はもう決めた。
切る。
「いくよー」
「え?え?」
"チョッキン"
その言葉と共に、手で作られた偽物のハサミで私と彼の"あるもの"を静かに断ち切った。
これでもう繋がる物は何も無くなった。
次は良いお嫁さん候補見つけるんだぞ。
「・・・おーい、大丈夫?気分悪いの」なんて適当に声をかければ、ハッと悪いモノから祓われたように意識を再度戻した彼。
成功はしたようだ。
「あぁ、えっと、何だっけ」
「別れようって言ったんだよ」
もう言う機会無いし面と向かって言うことは無いだろうけど、作ったご飯美味しそうに食べてくれる所は凄く嬉しかったよ。
ありがとう。
さようなら。
さっきの抵抗が嘘だったように今度はすんなりと受け入れた彼はこの場を後にした。
「切っちゃたんだ」
「うん」
親友は私の左手の小指を見つめていたけど彼女には見えない筈。
私は引っ張られていた感覚が無くなった小指を優しく撫で上げた。