【完】それでもいいと思える恋だった。
ゆっくりと歩いていく。
私が歩くの遅いから、捺くんは合わせてくれる。
ありがとうって言っても、なにが?ってはぐらかされるけど。
ちゃんと気付いてますよ、好きですからそう言うところ。
日常で。当たり前で。普通の事で。
だから見落としがちな捺くんの分かりづらい優しさも。
もうすぐ失ってしまうと気付いたら。
どんどん優しさに気付いて実感してしまう。
大切にされていることに、気付いてしまう。
本当に、不器用さんです。
恥ずかしがり屋さんです。
でも、そういう所が好きです。
ふわりと、風が吹いて。
風強いな、なんて言う捺くんをちらり盗み見ると。
捺くんを夕日がオレンジ色に照らしていて。
柔らかい髪を風がゆっくりと撫でる。
怪訝そうに眼を細めてて。
眉をひそめている。
ああ、私。
もう、この顔見れなくなるんだ。
些細な変化も、今日1日あった出来事も。
心の中に記憶された毎日の捺くんの姿も。
来週からは途切れてしまう。
こういう、ありふれた日常の捺くんを。
もう、見ることができなくなってしまうんだ。
私の視線に気づいた捺くんは。
なに見てんだよばーか、って言って微笑んだ。