【完】それでもいいと思える恋だった。

「転校がショックなのは分かるけど。
 もっと、やり方あったんじゃないの?
 最後だったのに香織、ずっと捺の事探してた。」



帰る背中が寂しそうに見えた。
ひとり、ゆっくり。
……俺が追いかけてくるの待ってたのかよ。
だからゆっくり、時々後ろを振り向いて。



「俺、最低だな。」



「分かってるなら追いかけてあげなよ。」



ほんと、あいつは大事なことは言わない。
昔からそうだ。


仕事の忙しい親に気遣って授業参観の紙を出さなかったり。
俺を好きだという女子から嫌がらせをされていたのを黙っていたり。
人の事ばっかで自分の事は後回し。
ほんと、お前はばかだ。


普通言うだろ、今日で最後だって。
知ってたら、俺だって知ってたら……。


……知ってたら?
俺は、一緒に帰っただろうか。


香織は、分かっていたのかもしれない。
今日で最後と言ったところで。
俺が一緒には帰ってくれないことを。


きっと、俺は。
一緒に帰る選択をしなかっただろう。


最後に傷つけることを言ってしまうぐらいなら。
いっそのこと帰らない方が良い。
そう、思ってしまう。


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