この暴君、恋すると手に負えません
「……円華」
不意に光希さんが桐生さんの名前を呼んだ。
その声はとても優しくて、まるで愛おしい恋人の名を呼んでいるようだった。
「……光希様?」
「久し振りだね、円華に会えて僕は嬉しいよ」
「……相変わらずですね。その締まりのない笑顔」
桐生さんは光希さんの緩んだ笑顔を指摘するように毒づいたが、それすらも光希さんはとても嬉しそうだった。
――私はどうやらお邪魔らしい。
「あ、私ちょうど会場に忘れ物してたのでここで降りますっ」
「虹美ちゃん?」
私は扉が閉まるボタンを押して、二人の顔に向かって会釈した。
「夜風に当たりにいくお相手は桐生さんにお願いしてもいいですか?」
「ちょっ、何を言ってるんだ!?美作虹美!?」
「では、いってらっしゃいませ」
私はエレベーターから降りて振り返り、閉まっていく扉越しで動揺する桐生さんと、”ありがとう”と口パクで私に告げる光希さんの姿を見送ったのだったーー......。