この暴君、恋すると手に負えません
咄嗟に私は背後に仰け反って避けた。
だが前髪を少し掠めてしまった。
「......光希さん!?」
「気に入らないんだよね、帝くんって。円華がいるにも関わらず、虹美ちゃんっていう別の女性を側近につかせて、それじゃ円華があまりにも可哀想でしょ?」
「光希さん落ち着いてください!」
だが私の声は光希さんには届かなかった。
光希さんは私の腕を掴み、手に持つナイフを私の首元に触れるか触れないかの距離に突きつけた。
「ごめんね、虹美ちゃん。恨むなら帝くんを恨んでね?」
そして光希さんがナイフを振り翳した瞬間、私はその腕を掴み止めた。
もともと工事現場という過酷な環境で男性同等に働いていた私の握力は平均的な男性以上だ。
でもそれを知らない光希さんは私の食い止める力に驚きの表情を浮かべていた。