この暴君、恋すると手に負えません
そして暴君は満足げに優越な笑みを浮かべながら、私の目の前に歩み寄った。
一瞬ちらりと桐生さんに視線を向けたかと思えば、何かを察した桐生さんは黙って会釈をし、そのまま光希さんの腕を引いて屋上を後にしたのだった。
――ちょ、この状況で暴君と二人にしないでよ!!
私の気持ちなど知る筈もない暴君は私の頬を包み込むように手を伸ばす。
気づいたらさっきのように柔らかい笑顔を浮かべていたのだ。
「虹美、今のちゃんと聞いてたか?」
「……嫌でも聞こえましたけど」
「あの通り、俺はお前をもう手放すつもりは一切ない」
「……あの聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「何で私なんですか?」
「何回聞くんだよお前は……」
すると暴君は額を重ねて私を真っ直ぐに見つめた。
いつの間にか腰に回した腕で私を抱き寄せ、甘い言葉で私をまた惑わす。
「お前を一目見た瞬間、この俺が惚れたからに決まってるだろ?」
当然だというようにあの妖艶な瞳で私を魅了させ、唇を簡単に奪っていく。
もどかしくなるように唇が重なっては離れ、また重なっては離れ、あの甘いキスを焦らされてしまう。