この暴君、恋すると手に負えません
「虹美、今日からお前もここに住むんだ」
突然またこの暴君は何を言い出すのだろう。私の脳内はすでに容量を超えていた。
「はい?」
「よし、決まりだな」
暴君は満足げに口角を吊り上げて笑った。
「いや、今の"はい"は貴方の望む"はい"ではなくて......っ」
「じゃ、まずはお前と契約を結ばせてもらう。とりあえず中に入れ、今日からここがお前の部屋だ」
暴君は当然のごとく、私の意見など耳にしなかった。そしてそのまま室内へと入っていく暴君の後姿を渋々追った。
室内は意外にもシンプルでモノトーンを基調にした海外の高級ホテルのようだった。
「おい桐生、例の物は用意できたか?」
「はい、只今お持ち致します」
すると部屋の扉をノックし、深々と頭を下げながらさっきの桐生という男が姿を現した。その男は私を横目でちらり盗み見た後、暴君に何かを差し出した。
「よし、下がっていいぞ」
「はい」
そして桐生という男は私に会釈し、部屋から静かに姿を消した。取り残された私は未だに部屋の扉の前から動けずにいる。その様子を見兼ねた暴君は小さく笑みを浮かべた。