この暴君、恋すると手に負えません
「……っ、あの皇帝め」
この帝さんさえも”皇帝”と名付けてしまうほどの相手。
まるで九尾狐(きゅうびこ)のように美しく化身し、人を惑わす悪しき存在のようにも感じた。
「虹美、大丈夫か?」
「はい、私は大丈夫ですけど帝さんこそ……」
明らかに誉さんの姿を見た瞬間から表情が強張ったままだった。
私はそれが心配で帝さんの顔を覗き込んだ。
「俺は平気だ。驚かせてしまって悪かったな。暫くは俺の部屋で過ごせ」
「え、でも……っ」
「俺の命令に背くつもりか?」
「……いえ」
そして改めて割れたベランダのガラスが部屋に飛び散っている様子を見渡した。
――……何か嫌な予感しかしない。
そんな不安が募りながらも私は帝さんの手に引かれて部屋を後にしたのだった――……。