この暴君、恋すると手に負えません



車の中で私はずっと帝さんの事が頭から離れずにいた。

最後に見たあの胸が苦しくなるほど切ない表情が、脳裏に焼き付いていたのだ。あんな顔をさせてしまった後悔に襲わていると、家の前に辿り着き車が止まった。

ミラー越しに私の顔を見ながら瑛斗は呟いた。

「......虹美、本当にこれでいいの?」
「うん」
「だって、帝様の事を本当は……っ「いいの、あの暴君に振り回されてうんざりしてたし。ちょうどよかった。送ってくれてありがとうね、瑛斗」

私は瑛斗の言葉を遮るように呟き、扉を開けて外へと出た。瑛斗は小さな溜息を吐き出し運転席くら離れると、トランクから私のキャリーバッグを取り出して渡してくれた。

「虹美、本当にいいの?」
「何回聞くの?私が自分で決めたことだよ」
「……誉様のシナリオ通りに事が進んでるんだぞ?悔しくないの?」


悔しくないっていったら嘘になる。
だけど私にはこの選択肢しか選ぶ事が出来なかった。


「帝様の言葉を信じたいって思ってるなら、今からでも戻ろ……「あの家に私の居場所はもうないの。私はもう帝さんのボディガードでもなんでもないんだから」
「……虹美」
「送ってくれてありがとう、じゃあね」

瑛斗は心配そうな顔をして私の姿が見えなくなるまでずっと見守っていた。
私は自分なりに上手く笑顔を浮かべて、キャリーバッグを引きずりながら玄関の鍵を開けた。



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