この暴君、恋すると手に負えません
これは所謂"壁ドン"というやつなのだろうけど、実際にされると普通に怖いだけだ。
どこにときめく要素があるのだろう。
反射的に顔を背けた私は、視界に入った本のタイトルに目を惹かれた。何故ならば意外にもそれは本を読まない私でさえ知っている探偵物の推理小説がびっしり並んでいた。
ーーって、物凄い睨まれてるし!!
視線を目の前にいる桐生さんに戻すと、いつのまにか目尻の皺が更に深くなっている。
「不本意だが、帝様の近くに誰よりも近くにいるのはお前だ。だから知らせておいたが、この事は帝様には絶対に言うな」
「どうしてですか?」
「もしこれがくだらない悪戯ならば、帝様の気苦労になるだけだからな。今夜、パーティー会場に着いたら帝様から片時も離れるな。分かったな?」
「......わ、分かりました」
桐生さんは、一瞬私を睨みきかせてから腕を離しデスクに戻った。