Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
(1) 最低で最悪な出会い
「姫様、どうか、今のうちに棄権なさって、どうぞターラントへ
お戻りください」
教育係兼、お目付け役のチェイコックが、しつこくそう言いながら
ついてくる。
しかし、ミュアは振り返ることもせず、顎をつんとあげると
歩調もゆるめずに答えた。
「いやよ、絶対に嫌。せっかくここまで来たんだもの」
「しかし、最初は ” 国内大会だけだ ” と、仰言られたでは
ありませんか」
「その国内大会で、優勝してしまったんだもの。
それに今のターラントはレベルが低くて、二位以下になった
オーガ達に、国の代表がつとまるとは思えなかったでしょ」
確かにそうだが……とチェイコックはため息をついた。
でもそれは、ターラントの王女であるミュアのオーガがずば抜けて優秀すぎるからだ。
背後のチェイコックが黙り込んだことに気づいて、ミュアは、ふふっと小さく
笑いをもらす。
そしてさらに歩調を速め、暗い通路の先の観音開きのドアにたどりつくと
勢いよく両手でドアを開け放った。
キラキラと輝く陽光が、暗さに慣れたミュアの目を射す。
光の中に躍り出たのは自分なのに、ミュアは溢れんばかりの光が自分の中に
一気に飛びこんできたかのように感じた。
目の前に広がるのは緑の芝生。
鮮やかに輝く芝生の上を、矢のようにまっすぐこちらに駆けてくる獣の姿が
ある。
「シルヴィ!」
駆けてきた獣は、勢いよくミュアの懐にとびこみ、その身体を抱きしめて
ミュアはにっこりと笑った。
「シルヴィ、私の大切なオーガ」
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