Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜

 十五歳になった年、ミュアはアルメリオンの第一王子であるウォーレスと
 婚約した。

 婚姻により、両国の絆をさらに強いものにする、そのための婚約は
 政略的なものだったけど、ミュアは嬉しくてしかたなかった。
 ウォーレスはミュアの憧れの人だったから。


 
 婚約のために顔をあわせたターラント城の迎賓の間で、
 まだ当時、皇太子だったウォーレスは、星々を纏い現れる古代神のように
 輝いていた。
 金モールで飾られた立て襟の白い軍服がこれほど似合う人が、他にいる
 だろうか ~* ~ * ~*

 程よい長さの黒髪は後ろに撫でつけられ、高い鼻梁に、きりりとした口許、
 オニキスのような黒い瞳はやさしくミュアを見つめている。

 
 父王や兄のランドルとも快活に言葉を交わし、政治的な話においては
 堂々と意見をのべる。
 だが、ミュアにはわからない難しい話が続くと、気遣うようにミュアを見て、
 さりげなく声をかけてくれるのだった。


   
    「退屈されていませんか? ミュアリス姫」
    「いいえ、だいじょうぶです」



 婚約式のあとの舞踏会では、ぎこちないミュアのダンスを笑うこともなく、
 正確にリードしてくれ、六歳も年下のミュアを、最高のレディとして扱って
 くれた。



    「私、ダンスは苦手で……」
    「そんなことありませんよ、筋がいい。それに私との相性は
     ぴったりのようだ」



 そう言って、ウォーレスはミュアを優雅にターンさせた。


 舞踏会も終わりに近づき、二人きりになった庭のテラスで、ウォーレスは
 ミュアの手を取り指先に口づけ、ささやいた。



    
    「二年たったら、式を挙げよう」




 捕られた手の指先に、指先から伝わる熱に、ミュアは頬を染め思ったのだ。

 もう、お転婆はやめよう。
 ウォーレス様にふさわしいレディになろう。

 最高の花嫁になって、ウォーレス様のもとへ嫁ごう。



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