Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜


 考えこんで歩いていたクロエは、前から人がやってくるのにも
 気づかず、その人物が、” やぁ “ と親しげに声をかけている
 のにも気づかなかった。
 
 
   いったいなにがあったんだろう? 夫婦の寝室で…… 。


 どんとなにかにぶつかって、クロエは足を止めた。

 顔をあげると、目の前に赤い皮表紙のファイルを持った
 トラビス=リードのにこやかな顔がある。


   
    「男性が女性を……」
    「え? 男性がなんだって?」



 考えごとに集中するあまり、ぶつかった相手におもわず
 もらしてしまったつぶやきに、トラビスが怪訝そうに
 首をかしげながら問い返すと、とたんにクノエは真っ赤になった。


   
    「あ、いえ…… そ、それは……」



 と口ごもり、ばさばさと胸にかかえていた書類の束をおとす。

 
 慌ててしゃがみこみ拾いはじめたクノエに、”手伝いますよ” と言いながら、
 トラビスも膝をついた。


   
    「ふたりでやれば早いですから」
    「い、いいえ、お気になさらず!」



 その時、つっと紙にのばしたクノエの指先が、同じ紙を拾おうとした
 トラビスの指先にふれた。

  びくっ

 小さく身体を震わせ、さらに赤くなったクノエ。

 彼女はありえない速さでトラビスが拾った分の紙をひったくると、
 すっくと立ちあがり小走りにその場から駆け去っていく。



< 116 / 192 >

この作品をシェア

pagetop