Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
考えこんで歩いていたクロエは、前から人がやってくるのにも
気づかず、その人物が、” やぁ “ と親しげに声をかけている
のにも気づかなかった。
いったいなにがあったんだろう? 夫婦の寝室で…… 。
どんとなにかにぶつかって、クロエは足を止めた。
顔をあげると、目の前に赤い皮表紙のファイルを持った
トラビス=リードのにこやかな顔がある。
「男性が女性を……」
「え? 男性がなんだって?」
考えごとに集中するあまり、ぶつかった相手におもわず
もらしてしまったつぶやきに、トラビスが怪訝そうに
首をかしげながら問い返すと、とたんにクノエは真っ赤になった。
「あ、いえ…… そ、それは……」
と口ごもり、ばさばさと胸にかかえていた書類の束をおとす。
慌ててしゃがみこみ拾いはじめたクノエに、”手伝いますよ” と言いながら、
トラビスも膝をついた。
「ふたりでやれば早いですから」
「い、いいえ、お気になさらず!」
その時、つっと紙にのばしたクノエの指先が、同じ紙を拾おうとした
トラビスの指先にふれた。
びくっ
小さく身体を震わせ、さらに赤くなったクノエ。
彼女はありえない速さでトラビスが拾った分の紙をひったくると、
すっくと立ちあがり小走りにその場から駆け去っていく。