Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜

 
 本格的な冬に入ってもアルメリオンの王城は小雪が舞う程度
 という日が続き、雪がつもるということもなく、
 外では寒い風がふいていても、ぴったりと閉じられた室内に日のひかりが
 差しこめば、適度な暖かさがあった。



 今、王と王妃の住まいは王城の東棟にある。

 だが、以前は長く西棟が、王と王の家族の住まいであり、
 歴代の王の肖像画もそこにあるため、西棟で歴史学の授業をうけたミュアは、
 授業を終え侍女とともに一階の回廊へとむかう階段をおりていた。

 侍女は、西棟はあまり使われていないから寒いと言うが、
 ターラント育ちのミュアはそれほど苦にはならない。

 それでも、寒がる侍女のためにと足をはやめ、
 踊り場から二階のフロアへとおりたミュアは、
 かすかにだが楽の音が聞こえてくることに気がついた。


 西棟の一階の一部は、トラビスの他、二、三人が住まっているが、
 王族の居室があった二階は使用できないはず。
 
 それに、聞こえてくるのは……。


   
    「オールド・フィドルの音だわ」



 オールド・フィドルはバイオリンに似ているが、バイオリンのように
 側にくぼみがなく卵型で、今はあまりつかわれない古典楽器、
 そして、亡きウォーレスが愛した楽器。

 生前ウォーレスが、ミュアのためにと演奏してくれたことがあり、
 懐かしいその音色にひかれ、ミュアは二階の奥へと足をむけていた。


 冬にしては、明るい日差しが差しこむ廊下を歩きだせば、
 フィドルの音はだんだんと大きく聞こえ、中ほどまできた、
 ドアのあいている一室から聞こえてくるのだとわかる。




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