Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
その部屋の手前まで歩き、そっと室内をのぞきこむと、
織りのある絨毯がひかれたがらんとした室内に、フィドルを奏でる
男性の姿があった。
長い黒髪を背中にゆらし、細い指をなめらかに動かしている
その男性(ひと)は、アルメリオン第二王子の
ジョルジュ=デュア=アルメリオン。
彼は、入り口にいるミュアに気づくと、楽器をおろし、
薄い笑みをうかべてミュアのほうへと歩いてきた。
「お久しぶりですね、ミュアリス姫、いや、今は
ミュアリス王妃と呼ぶべきでした」
「驚きました、いつ、お戻りになられたのですか?」
「王城についたのは今朝です。ご挨拶に伺わねばと
思いながら失礼をいたしました」
彼は、ウォーレが亡くなる直前に、東の大陸へと旅立っていた。
アルメリオンやターラントのあるこのローム大陸から、大きな海洋を
こえたところにある東大陸。
長い航海の船上にいたジョルジュには、ウォーレスの崩御の報は届かず、
彼は戴冠式にも婚姻の式にもあらわれず、そしてこの突然の帰国まで、
ミュアには、彼について何一つ詳しいことは知らされていなかったのだ。