Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
心配した兄のランドルが、遠乗りに行こうと誘っても、ミュアは静かに
首をふるだけ。
ミュアの好物の苺のタルトを持って、ランドルが部屋を訪れても、
” ありがとう、お兄さま ”と言いながら、切り分けた細い一切れを
ゆったりと口に運ぶだけ。
以前のミュアだったら、目を輝かせ、丸ごとかぶりついただろうに……。
なんだか拍子抜けし、ランドルは考えた。
そして、いいことを思いつく。
チェイコックを呼ぶと、彼は四角い箱を渡してこう言った。
「必ずミュアの前でチェイコックが開けるんだよ」
言われた通り、チェイコックはミュアの部屋に行くと、慇懃に礼をし
「ランドル様からミュアリス様へ、特別な贈り物でございますよ」
と言いながら、箱の蓋を開けた。
すると、緑色の大人の拳ほどもあるカエルが飛びだして、チェイコック
の顔に張りついた。
「△?? % ⬜︎ ◯ ♯ ?! !!」
部屋中に、チェイコックの何を言っているかわからない悲鳴が響き渡る。
両手を振り回し、わめき声をあげるチェイコックにカエルも
びっくりしたのだろう。
慌てて、チェイコックの顔から頭の方へと移動したが、チェイコックの
年齢の割には髪の毛が後退した額に足をすべらせ、ぼとりと落っこちた。
「わっ、あぁ!」
落ちたカエルを踏むまいと、まるで棒とびダンスをしているかのように、
交互に足を振り上げたチェイコックは、勢いあまって、ずどんと後ろに
ひっくり返る(カエル)。
その隙にカエルは、這々の体で部屋のすみへと飛んでいった。
このひと騒動をミュアは目を丸くして見つめており、そしてきゅっと、
口端を弧のかたちに持ちあげた。
だれもが、飛びだしてくるのは明るく大きな笑い声だと思ったのに、
ふっと息を吐きミュアは言ったのだ。
「まったく、お兄様は、いつまでも子供ね」