Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
ジョルジュは、ミュアの後ろにひかえている侍女に、
王妃は私が送っていくから東棟に帰るようにと言い、ミュアひとりを
室内に招きいれると、もう一度フィドルを抱え、染みわたるような
深い音を響かせた。
「懐かしいでしょう? 亡き兄が好きだった音だ。
深く、品よく、優雅に響く音。
私たちの母が生前、愛し、奏でた音でもあるのですよ」
「まあ、前王妃さまが」
「母に手ほどきをうけて、兄も私も弾けるようになったのです」
ミュアはなんとなく引っかかりをおぼえた。
じゃあ、グレイは?
ああ、グレイは音楽には興味を示さなかったのかもしれない
彼はきっとオーガに夢中だったのだろう
「下賤(げせん)なものには無理、真に高貴なものにしか
だせない音だと言われています」
そう言ってジョルジュはミュアに近づくと、耳許に顔をよせささやいた。
「ミュアリス様ならすぐにできるでしょう、私が手ほどきをしますよ。
亡き兄も、きっと喜ぶ」
あまりに近い距離にミュアは戸惑った。
失礼にならないようわずかに下がり、にっこりと微笑む。
「ありがとうございます」
そう言って、貴婦人の礼をするとミュアは足早に部屋をでた。
送ると言っていたジョルジュは追いかけてはこなかった。