Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜


 また、グレイの指がミュアの身体をなぞりはじめる。

 
 耳から首筋、肩から腕、胸の真ん中を滑りおり、手のひらが優しく
 腹部にそえられる。

 なぞられたところが秘かに熱をもち、口から甘い吐息が漏れそうに
 なるのをミュアはこらえた。

 そうしてしまえば、グレイがこの行為をやめてしまうように感じたから。


 三たび、グレイの手がもちあがり、ミュアの身体に残した熱い軌跡を
 たどりはじめる。


   
    「忘れないようにこうして憶えておく」
    「もう逢えないみたいな言い方だわ」
    「しばらく逢えないだろ」
    「じゃあ……」


 
 ミュアはくるりと素早くうしろを向いた。


   
    「こっちをむくなって言ったよな」
    「私だって忘れないようにしなくちゃ、だもの」



 
 手をのばし、癖のあるめずらしい紅い髪にふれる。

 耳にふれ、印象的な色の金の瞳の目許で戯(たわむ)れるように
 指を動かし、鼻をすべりおりて何度か口づけした唇にミュアはふれる。
 
 
 キスしたい、とミュアは思った。
 淑女は自分からはキスはしないもの。
   だから……キスしてくれないかしら……。
 とグレイを見上げた。


   
    「見るなよ、そんな目で」



 グレイがミュアの頭のうしろに手をまわし、自分の胸にミュアの顔を
 押しつけ、封じこめるようにミュアをかかえこんだから、
 もう続きはできなくなった。

 強く抱きしめられ、ミュアはもうグレイの心臓の音をきいているだけしかない。

 身体にじかに伝わってくる力強いリズム、すこし早いのは、
 肌が触れあっているせいなの……?



 部屋の中は静かで、二人一緒のベッドの中は温かかった。
 時が緩(ゆる)やかに二人を包んでいる、そんな気がする。


 そしていつしか知らぬ間に、ミュアは眠りについていた。




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