Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
薄い唇にわざとらしい笑みをのせ、彼は近づいてくると、
うやうやしくミュアの手をとり口づけた。
「なにかようでしたか?」
「先ほどの会食で、あなたはグレイ国王を庇(かば)われた」
ゆっくりと立ちあがり、微笑みながらそうジョルジュは言ったが、
意図するところがわからず、ミュアは黙って続く言葉を待つ。
「誰もが非難するなかで、夫を庇う。確かに妻としては
それが正しい行いでしょう、だが、あなたは王妃だ。
先ほどのあなたの言動は、王妃としてはどうだろうか」
「私は王妃としても正しことを言ったつもりです」
疑いのない声で強く言いきられた言葉にジョルジュは、
口端を持ちあげたまま、眼を細めた。
「ずいぶんと短い間に…… そんなにグレイが
気にいった?」
揶揄(やゆ)する調子の言葉と態度、ずいぶんと侮辱した言い方に
頭にかっと血がのぼり、ミュアはジョルジュを睨みつける。
「あなたが好きなのは兄だと、思っていたんだけどな」
睨みつけられても、薄笑いをやめずミュアの顔を覗きこみ、
ジョルジュの美しい黒髪がさらりと流れるようにこぼれた。
「変わり身のはやい方だ」
そして、黒髪がミュアの顔にふれるほど、彼ははさらに
ミュアに近づいた。
「だが悪くない。さらに夫を取りかえる日が
すぐになるかもしれないからね」
意味ありげに、にやりとするジョルジュ。
突きとばしたいのをこらえ、彼がが背を向け、
十分離れていったのを確かめてから、ミュアは止めていた
息をはきだした。
頭が火かき棒をつっこまれたみたいに熱をもち、
王妃の顔も貴婦人の顔もできそうにないと思ったミュアは、
離れたところにひかえて待っていた侍女を先に私室へ帰らせると、
中庭へと急いだ。