Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
脇目も振らずに足を動かして、庭の奥まったところにまで
やってくると、ミュアはやっと立ち止まり考えた。
誰もいないここなら、わーっと大声でさけんでも、
かまわないかしら?
声がかれるほど叫んだら、質の悪い酒をむりやり飲まされたような
この気分の悪さも、すこしはどうにかなるかもしれない。
あたりをきょろきょろ見まわして口を開きかけたミュアは、
次の瞬間、あわてて口をおさえ、すばやくそばの木のかげに逃げこんだ。
なぜなら、執務補佐官のトラビス=リードが、
筆頭侍女のデリアをともなって、足早にこちらにむかってくるのが
見えたからだ。
トラビスとデリア ー ー 妙な取りあわせだ。
ああ、でも、彼と彼女は ” 甥と叔母 “ だったわ。
「内密の話だ」
木のかげでひとり納得し、自分で自分に頷いているミュアの耳に、
トラビスのひどく緊迫した声が届く。
「グレイがボドナ鉱山の麓で、賊におそわれて行方不明だ」
「リード家への連絡は」
「すでにすませた。
事情を知るものには固く口止めしてあるが、くれぐれも
王妃に知られることが ないよう注意してくれ」
「わかりました」
ふらりとミュアは木に寄りかかった。
足が震え、そうしなければ倒れてしまいそうで、
叫びださないよう強く口を押さえ、なんとか心をしずめる。
それからそっと、二人に気づかれないようその場を離れ、
急いで東棟にもどり、自分の部屋に駆けこんだ。
「クノエ!!」
先にさがらせた侍女はいなくてクノエ一人なのを確かめると、
ミュアはクノエに縋りつくようにしてさらに叫んだ。
「クノエ、私、すぐにボドナ鉱山に行くわ!」