Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
暖炉の前に置かれた椅子に座ったミュアの右うしろに、
ヴェイニーがにんまりとした顔で立ち、トラビスを案内してきた
クロエも静かにその左隣に立つ。
王妃の威厳をただよわせた厳しい顔のミュアの足もとには、
黒のオーガと銀のオーガがいて、トラビスに射るような視線をおくっている。
「あー、あの、えーっと……」
「執務補佐官トラビス=リード。私を陛下がいなくなった
という場所へ つれていきなさい」
「はっ、王妃さ……、あっ、いや、なぜ! それを?」
おごそかなミュアの声に、おもわず臣下の礼をとり頭を下げかけた
トラビスは、はっと我にかえり、すっとんきょうな声をあげたが、
中庭での会話をミュアに聞かれていたのだとわかると、脱力したように
肩をおとした。
「王妃様、お気持ちはわかりますが……」
「ええ、その場に行ったところで、なにができるわけでも
ないでしょう。
でも、何もしないでいることもできない」
切羽詰まったミュアの言葉にトラビスはきゅっと口を引き結ぶ。
真剣に考えこんだ彼は、しかし、大きなため息をつくと首を横にふった。
「人手を増やして探しても見つけることができないのです。
やはり、ここか、城でお待ち……」
「じゃあ、オニクスをつれていけばいいんじゃないかねぇ」
ヴェイニーののんびりとした声が、トラビスの言葉を止めた。
「は?」
「この子なら必ずグレイを見つけられるね。
なんならシルヴィもつれてけばいい。
シルヴィは、絶対ミュアを危険から守るだろうよ」
「……」
腰に手をあてたヴェイニーの、自信と貫禄(かんろく)に満ちた顔と
言葉に、とうとうトラビスは
「わかりました」
と、ため息をつきながら答え、すぐに館から二台の馬車が
ボドナ鉱山をめざし、出発した。