Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
しばし躊躇ったあとで、グレイがぽつんと言った。
「……母の故郷へいく」
「黙って、妻を残していくなんて、許されないわ」
ふっとグレイが息を吐く。
” ミュア “ と静かに名を呼び、彼は身体を離した。
「君は、妻じゃない。俺たちは結婚していない」
「何を言うの? 聖堂の神の御前で誓ったでしょ」
「あれは、形だけ。大祭司は、あのとき古代語で
誓いを無効にしたんだ」
「嘘よ……」
「本当だ。君は、なんの問題もなく、兄と結婚できる」
その言葉が深くミュアの胸を抉(えぐ)った。
本当に身を裂かれたかと思うほどの痛みが、
ミュアの顔をゆがませる。
息がつまり、急峻な流れのなかに放りだされて、
溺れているかのようにミュアは感じた。
「あなたは、それを、望むの?」
「……」
グレイはなにも言わず、視線を落とすと、月明かりにのびる
樹木の影を見つめている。
そして長い沈黙のあと顔をあげ、かすかな微笑みを浮かべ、
彼はミュアの頬へと手をのばした。
冷えた指先が頬にふれ、すぐに離れていく。