Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
乗っているこの帆船はグレイのもの。
母の故郷の島には、南国産の果実でつくるリキュールの工場があり、
この七年間で、グレイはまずまずの商売の成功をおさめていた。
七年の間、グレイはローム大陸をはじめ、西大陸までも販路をひろげて
いるが、アルメリオンに足をはこぶのは今回がはじめて。
アルメリオンの取引だけは、他のものにまかせ、
慎重にアルメリオンの人間と会うのは避けてきたからだ。
過去が知られないために、過去をふりかえらないために。
自分はもう、グレイ=デュア=アルメリオンではない。
今の自分は グレイ=オゥバン。
大きな工場の経営者であり、輸出入をあつかう貿易商、
オゥバンは母の氏の名だ。
内政が不安定で貧しかった母の島国は、グレイがおこした産業と輸出で
じょじょに安定し、豊かな国へとかわりつつある。
島の人間が昔から作っていたリキュールが、商品になると考えたのは、
もうずいぶんと前だ。
母やヴェイニーが、リキュールを紅茶につかっているのを見て、
今の商売の計画が、いつもグレイの頭の中にはあった。
それを現実のものとする力を手にいれたのが、今から七年前。
アルメリオンの国王だった兄のウォーレスがもちかけてきた計画に、
グレイはまとまった額の金と国交をひらくための人脈、そして、
自分が王族ではなくなり、王族貴族社会から自由になること
を条件に力をかした。
その結果、望み通りのものを手にいれ、グレイ=デュア=アルメリオンは
死んだ。
手にいれたかったもう一つの望みは手放して……。