Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
それでよかったのか、と問われたら、グレイは答えられない。
今の成功はチャンスをいかし努力した結果で、この成功には
満足しているが、グレイはあの時自分の心の大切な部分を失った。
その空洞は、七年たった今もそのままだ。
アルメリオンに関するすべてが、失ったものの記憶に結びついてしまい、
苦しみがグレイを襲う。
だからグレイはアルメリオンには近づかず、目を背け、耳に入る言葉は
聞きながし、求めそうになる心には、重く大きな蓋をした。
だが、グレイが直々に出向かねばならないほどの取引上のトラブルがおき、
グレイはいま、アルメリオンをめざす船の上にいる。
海鳥が鳴き交わす声がふえてきた。
港はもう、目の前だ。
港の岸壁に船は停まり、静かだった甲板は、船倉から荷を
運びあげる水夫や人夫たちの声でやかましい。
荷揚げや荷下ろしの指示や、水夫とのうちあわせに忙しそうに
していた船長が、ごつい身体をゆらして
グレイの方へやってくると言った。
「船主様、帰りは、午後の三つ時の鐘がなったらです」
「わかった、それまでには戻る」
今は短く刈り上げている紅い髪をボーラーハットを深くかぶることで
隠すと、グレイはひとり港に降りたった。