Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜


 潮風にふかれながら、商談をすませたオフィスから波止場を
 めざして歩き、グレイは少しばかり感傷的な気分になっていた。

 
 吹きぬけていく風の肌ざわりも、行きかう人々の容姿や
 服装や言葉も、今すんでいる島国とはまったく違う。

 もっともグレイが幼少より慣れ親しんだ上流社会のものとは、
 少しばかり異なってはいるのだがそれでも、それらから受け取るのは
 ” 懐かしさ “ だ。


 思う存分その “ 懐かしさ に浸りたいと感じながらも、
 これはやっかいな感情だ、とグレイは思った。


   さっさと船に戻ったほうがいい ー ー


 そう思い、岸壁や桟橋に停泊している様々な船をみながら
 歩いていたグレイは、ふと、人足や水夫たちがかわす、訛りのある
 荒っぽいアルメリオン語のなかから聞こえてきた言葉に、注意をひかれた。

 
 上流社会の人間のつかうイントネーションのアルメリオン語と、
 その声の幼さ。


   
    「わあ、いろんな船がある」



 声がしたほうに目をむければ、帽子を深くかぶった五、六歳ほどの
男の子が、転落防止の柵から海へむかって身をのりだすようにして、
 はずんだ声をあげている。


   
    「僕、あの船がいいな」



 ひとりでいるのに、誰かに話しかけるようにそう言い、
 男の子が指さしたのは、グレイの船だった。




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