Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
一人だけ遅い朝食をとったあとは、大陸が遥かな神の御代だったころを学ぶ
古典の授業と、最近習い始めたヴァイオリンのレッスンが続けてあり、
疲れをおぼえたミュアは、少し休もうとお気に入りのバラ園にむかっていた。
東の棟の回廊を半分まできたところで、若い近衛騎士をつれて歩いてくる
兄のランドルと出会う。
「朝食の席にあらわれなかったが、気分でも悪いのか?」
にこやかに笑いながら、ランドルがミュアにそう声をかけた。
「いいえ、そんなことありませんわ」
寝坊しました、なんて正直には言えないから、ミュアは微笑んでランドルの
言葉を躱す。
五つ上のランドルは、ミュアと同じプラチナブロンドの髪に、
ミュアよりは深いグリーンの瞳、
ミュアとはよく似た顔立ちだ。
二人とも美人と誉れ高い母である王妃に似ているが、性格はミュアが
父親似で、ランドルは大人しい母に似ている。
五つも歳が離れているせいか、あまり喧嘩したこともなく、兄はいつも
ミュアにやさしい。
「三日後にはノイエ卿がアルメリオンから戻ってくる。
ウォーレス殿から具体的な返事を預かってくるだろう」
そう言ってランドルはミュアに穏やかな顔をむけた。
「はい」
今回、ノイエ卿がアルメリオンを訪問するにあたり、兄がウォーレスに
なんらかの働きかけをしてくれたということは、ミュアの耳にも入っている。
結婚が延期になってもう二年も経つのだ。
いつまでも婚約のままでは格好がつかない。
「兄上の心遣い、感謝いたします」
ドレスのスカート部分を広げ、優雅に腰をおって顔をあげたミュアは、
ランドルの後ろに立つ近衛騎士と目があった。
ぱっと目を逸らした若い騎士の頬が、ほんのりと赤い。
ミュアの目線の先が、うしろにむいていることに気づいて、ランドルが
振り返りつつ口をひらく。
「この春から、近衛騎士団に入隊したアランだ。アラン、
妹のミュアリスだ」
「はっ、存じております」
そう言って、アランは胸に拳をあてて、騎士の礼をする。
「お務め、ご苦労様です、兄をよろしくお願いしますね」
かすかに首をかしげながら、ゆるやかに微笑んでミュアはアランに
そう声をかけると、もう一度ランドルにむかって礼をしてその場を離れた。