Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
「ええ、私もコーヒーをお願いします」
懐かしい声。
髪を一つに結い、日傘(パラソル)をさした女性が微笑んでそう言うと、
店員はにっこりと笑って頷き去っていった。
グレイはぽかんと、そのやりとりを眺めている。
「前の席に座ってもよろしいかしら」
女性にそう尋ねられ、グレイはまるで子供のように、コクんと頷いた。
グレイの横を通り前にまわると、さしていたパラソルを閉じ、
おちついた所作で彼女は座る。
そんな彼女の服装は、質はよさそうだが、王族、いや貴族ともいえない
ようなものだ。
濃いグリーンのドレスは、美しいアイス・グリーンの瞳によくあって
いるが、装飾がなにもないシンプルなもの。
飾りは胸にとめた花モチーフのレースブローチだけ。
だが、美しさは損なわれていない。
それどころか、前にはなかった “ 落ち着き “ が、彼女をさらに
魅力的にみせている。
「なぜ、ここにいる?」
やっとグレイの口から、言葉が転がりでた。
その言葉に目の前の女性…… ミュアは、ゆっくりと微笑んだ。
「あまりにいい陽気なので、友人たちと海を見にきましたの。
息子がずっと、そうしたいと言っていたものですから」
どくんとグレイの胸が跳ねる。