Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
「息子……」
「ええ、ジェイミスといいます」
苦しいほど胸の鼓動がはやまり、でも、グレイは努めて平静な声をだした。
「王太子なのか」
「おまたせしました」
店員の声がして、ミュアの注文したコーヒーが、コトんとテーブルに
置かれた。
ミュアは微笑んだまま、コーヒーカップをもちあげて、一口すする。
「おいしいわ」
「ああ」
グレイは、自分の前にも同じカップがあるのに今気づいたというように、
カップをもちあげた。
妙な間があき、グレイの問いかけは、宙ぶらりんのままぶらさがっている。
よい香りとともに、口の中にひろがるコーヒーの苦味をあじわいながら、
グレイは、きっとミュアの返事を聞けば、痛みさえ伴うほどのもっと濃く
するどい苦味が、自分の胸にひろがるだろうな、と思った。
その予感に怯(ひるみ)ながら、カップを置いたとき、ミュアの声が
耳にとどき、カップから離そうとした手がとまる。
「違うわ、王太子じゃない」
返事の意味がすぐにはのみこめず、グレイは眉をひそめた。
「どういうことだ」
再び、うちはじめた鼓動に、息苦しさを感じてグレイはかすれた声をだす。
「なにも知らないの? ウォーレスは二年前、モンパル公国から
王妃をむかえ昨年、その王妃との間に、王子が生まれたの。
アルメリオンの王室は安泰よ、ウォーレスは、よい王で、
国民もみな王を敬い、 治世は安定し……」
「ウォーレスのことなんかどうでもいい!
なぜだ? なぜ君が王妃じゃない? いや、王妃じゃないとしても..
なぜ、ここにいて、なぜ、息子が……」