Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜

 
 言葉がとぎれ、グレイはぐっとこぶしを握る。


    
    「そうか…… 今、君は、トラビスと……」
    「え?」



 グレイはぷいっと横をむいた。
  トラビス…… あいつ……。

 

 アルメリオンの人間との接触はさけてきたが、トラビスとだけは
 連絡をとりあい、この七年間も数回、島で会っている。

 それなのに彼は、ミュアを妻に迎えたとは、一言もいわなかった。
 
  言えなかったのか……。


 そう納得したが、ふつふつと釜の湯が煮えたぎるような怒りが、
 腹の底から湧いてくる。


 目に剣呑な光を宿しながらも、グレイはなんとか怒りをのみこんで、
 聞いておかねばと思うことをたずねた。


   
    「それで、今、幸せなのか?」



 視線がしばし彷徨(さまよ)い、ふっと目を伏せたミュアが、
 小さな声でこたえる。


   
    「ええ、幸せよ」
    「そうか」



 そうとしか言えなかった、ミュアのしばしの逡巡(しゅんじゅん)が、
 なんの意味を含んでいるか考えてみてもしかたがない。


 もう自分には関われないことなのだから。
 すがる手を離したのは、ほかでもない自分だ。


   
    「そうか、多少変人なところがあるがトラビスはいい奴だ。
     君が、息子とトラビスと三人で幸せなら、それでいい」
    「は?」

 

 大きく目を見開いたミュアが、まじまじとグレイを見る。


   
    「……ちがう? ……のか」



 くすくすとミュアは笑いだした。


   
    「トラビスと私が? ありえないわ。
     たしかにトラビスは昨年、結婚したけれど」
    「え?」
   
  
   聞いてないぞ ー ー。


    「トラビスが、何度もなんども求婚してやっと射止めたのは、
     クノエよ」
    「は?」



 グレイの表情に、ミュアは笑みを深くすると言った。


   
    「トラビスとクノエは幸せに、リード家で暮らしているわ」
    「じゃあ、君は」
    「私は……」



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