Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
ベールをとろうとしたミュアの手をクノエがやんわりと止め、
キィと部屋のドアがあき、ナゥナの枝をひたした水盤を持った
神の御子の衣装を着たジェイミーが、祭司とともに入ってきて、
しずしずと祭壇の前へと歩いていく。
ミュアは首をかしげた。
今日のリハーサル、ということかしら?
「御子の姿がとても似合ってるわ、ジェイミー!」
てっきりこれはリハーサルだと思ったミュアが、うれしそうに
手をたたいて言えば、おごそかに低めた声で、ジェイミーが答える。
「母上、そのように大声をだしてはいけません、もう式は
はじまっているのですから」
「え…… 、ジェイミー?」
「ミュア様、これも持ってくださいね」
クノエがベールに続き、さっきまで本人が作っていたブーケをミュアの手に
もたせ、やさしく、ゆっくりと、ミュアを部屋の入り口の方へと
ふりかえらせた。
ミュアは大きく目を見ひらく。
部屋の入り口には花婿姿の男性が立っていて、彼は、微笑みをうかべながら
しっかりとした足どりでまっすぐミュアにむかってくると、ひざまずき、
ミュアの手をとった。
「私と、結婚してください」
「はぁ?」
ミュアが、” はぁ? “ という呆けた返事しかしてないのに、花婿姿の……
グレイは、さっと立ちあがり、ミュアを祭壇の方へむかせて横に並び立ち、
小声で “ 早く!!” と祭司を急(せ)かした。
眼光鋭く見据えられ、低めた声で急かされた高齢の祭司は、慌てて目を
しばたいて、すぐに古代語の祈りをつぶやきはじめ、とってつけたように、
ナゥナの枝であたりを祓(はら)う。