Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
「プロポーズをうけいれてくれるだろ」
「祭壇に祭司まで用意して、断られるってことは考えなかったの?」
「全然」
きっぱりと言いきり、にやりとグレイが笑う。
「もし断られたら、拐って(さらって)いくつもりだった」
「あなた……貿易商なんていってるけど、本当は海賊になったんじゃ
ないの?」
「欲しいもののためなら、海賊の真似(まね)ごとだってするさ、
そうまでしても手にいれたい、もう後悔はしたくない、
二度とこの手は離さない」
その時突然、バァン!と扉があいた。
「なんですか、ぼっちゃん! まだ式の途中なんですか!
早くしないとせっかくの料理が冷めちまいますよ!!」
ヴェイニーの大声が響きわたり、彼女がじろっと祭司を睨(にら)んだので、
年老いた祭司は目をしばたくことすら忘れて、慌てて古代語の祈りのつづきを
唱えはじめた。
「それでは、花婿から花嫁へ、至愛のキスを」
ジェイミーをおろし、グレイがゆっくりとこちらをむく。
ミュアもゆっくりとグレイの方をむき、かるく顔をかたむけ右頬をさしだした。
ふっとグレイの頬に、笑みがうかぶ。
グレイの手が大切なものにふれるように、ミュアの両頬を愛しげにつつみ、
ふってきたのは、やさしいキス……。
躊躇うほどにやさしく、口の上でとける。
明るい声と、はじける笑顔、虹色に輝く幸せな時間(とき)が、
ヴェイニー館の居間をいつまでも満たした。