Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
(2)-2 黒い王子 黒い国王
初夏の眩しい光の中にウォーレスの好きな白い薔薇が、
幾重にも咲き誇っている。
外にでて、バラ園の隅のベンチに腰をおろしたミュアは、先ほどの若い
近衛騎士を態度を思い出して、ふふふっと笑みをこぼした。
頬が赤くなっていたわ ーー
若い男性のそんな反応は、やっぱり嬉しい。
結婚が延期になったこの二年間、婚約中にもかかわらず、どれだけの男性
から、熱い視線を送られたことか。
でも、私が、心の中で思い描く男性は ……
「それで、ウォーレス陛下の絵姿は手に入りそうなの?」
心に浮かんだ人の名が、突然うしろから聞こえてきて、
ミュアはぎょっとなって身を縮めた。
そっと、背もたれからうしろを窺うと、侍女が二人、立ち話をしている。
「ノイエ様付きの侍女に頼んだわ。アルメリオンでなら手に入ると
思ったから。
こんな機会、滅多にないもの。
ウォーリス様のほかに、第二王子のジョルジュ殿下と第三王子の
グレイ殿下のも頼んじゃった」
「それはすごいわ 三つともそろったら!
だって、アルメリオンの三王子はみんなハンサムだって有名
ですもの」
「でも、グレイ王子のは難しいかも…… だって、ほとんど公の場に
でてこないって話でしょ。絵姿自体が出回っていないのかも
しれないし」
「そうねぇ。でも手に入って、グレイ王子の絵姿が噂どうりに素敵
だったら?」
「きゃー!!」
はしゃぎながら侍女たちは去っていき、ミュアは縮めていた身体をゆっくりと
おこす。
燃えるような紅い髪と金色に見えるアンバーの瞳の少年が頭に浮かんだ。
彼のオーガを傷つけ、彼を怒らせた。
あれから一度も会っていない。
「グレイ王子……」
長い間、耳にすることのなかった名を、声にだして呟く。