Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
アルメリオンの三王子が美形揃いだというのは有名な話だ。
ウォーレス王子(今は国王だが)は明るく闊達で、太陽のようだと
称される。
第二王子のジョルジュ殿下はストレートの黒髪を背中までのばした、
理知的なハンサムで、月にたとえられ、ミュアより一つ上の
第三王子グレイは、その印象的な紅い髪から、天降節の日に
西の空にあらわれる赤輝星にたとえられている。
第三王子のグレイは、戦神マルゥーズの左目だといわれる赤輝星のごとく
激しい気性の持ち主だが、底にマグマを溜めこんで静まりかえる休火山
のように、いっさい表には出てこないらしい。
そもそも王城にすら住んでおらず、先王の葬儀にも姿はなかったという。
たった一度会っただけだが、王子らしくない上に、ひねくれた性格
なんだろうということは、ミュアにも想像がついた。
でもそのたった一度の出会いを思い出すと、抜けない棘がいつまでも
刺さっているかのようにじくじくと胸が痛む。
フライングキャッチの場所が近かったのは、係りの者の手違いだったと
わかった時には、もうグレイ王子と黒いオーガの姿はどこにもなくて、
詫びる機会はなかった……。
ふーと息を吐きだしたところでベンチについていた手をぺろりと舐められて、
ミュアはそばにシルヴィが来ていたことに気がついた。
「シルヴィ」
そっと名を呼ぶと、シルヴィがミュアの膝の上に頭をのせてくる。
「私が落ちこんでいると思った?」
そうだ、というように尻尾が揺れる。
「シルヴィは、なんでもお見通しね」
角を失ったシルヴィ。
額には先の丸くなった出っ張りがあるだけだ。
もう完璧なオーガではないけれど、シルヴィは元気に、そして美しさを
そこなわず成長した。
不具となった彼女を遠ざけ、新しいオーガを飼うことなど、
ミュアは思いもしなかった。
角はなくても、シルヴィはシルヴィだから。
病気や怪我をしたオーガは野生に帰ることもできず、せまい檻の中で暮らし、
短い一生を終えるしかないという。
では、あの黒いオーガはどうなっただろう?
ぼんやりとそんなことを思いながら、ミュアはやさしく、
シルヴィの短くなった角を撫で続けた。